
「受け口」とは、正式には「反対咬合(はんたいこうごう)」と呼ばれ、上の前歯よりも下の前歯が前に出ている状態の咬み合わせを指します。見た目の問題だけでなく、咀嚼や発音にも影響を与えることがあります。
受け口(反対咬合)になる原因
骨格的な問題
上顎の発育不足や下顎の過剰な発育など、顎の骨の大きさやバランスが原因となる場合が多いです。遺伝的な要素も関わると言われています。
歯並びの問題
骨格には問題がなくても、歯が傾いて生えていることで受け口になっているケースもあります。
生活習慣
口呼吸、指しゃぶり、舌で下の前歯を内側から押す舌癖(ぜつへき)などが、受け口を悪化させる要因となることがあります。
受け口(反対咬合)の治療方法
受け口の治療は、年齢や症状の程度によって様々な方法があります。1~2年程度が目安ですが、その後の永久歯への生え替わりで追加治療が必要となる場合もあります。
小児期の矯正(3歳頃)
顎の成長を利用できるため、骨格的な問題の改善が期待できます。
ムーシールド
主に乳歯列期や混合歯列期(3歳から8歳頃)の子どもの反対咬合(受け口)を治療するために用いられる、取り外し式のマウスピース型矯正装置です。
効果
ムーシールドは、単に歯を動かすだけでなく、口の周りの筋肉のバランスを整え、舌や唇の悪い癖を改善することを目的とした「口腔筋機能療法(MFT)」に基づいています。
具体的には、以下の効果が期待されます。
舌の位置の改善
受け口の子どもは、舌が低い位置にある「低位舌」になりがちです。ムーシールドを装着することで、舌が正しい位置(上顎の裏側)に誘導されます。
筋圧のコントロール
舌が下の前歯を押す力や、頬の筋肉が上顎を圧迫する力をコントロールし、正常な顎の成長を促します。
骨格の成長誘導
上顎の成長を促し、同時に下顎の成長を抑制する力を働かせ、上下の顎のバランスを整えます。
適用されるケースと対象年齢
適応症例
上顎の成長が不十分で、下顎が相対的に前に出ている反対咬合。
対象年齢
3歳から10歳頃が目安とされています。特に3歳から5歳の乳歯列期からの治療が最も効果的とされています。これは、骨がまだ柔軟で、成長を利用しやすい時期だからです。
装着方法と期間
装着時間
主に就寝時と、日中1~2時間程度の装着が推奨されます。
治療期間
個人差はありますが、通常は1年程度の使用で改善が見られることが多いようです。
メリット
早期治療が可能
3歳からの早期治療が可能で、将来の抜歯や外科手術を回避できる可能性があります。
患者への負担が少ない
マウスピース型で取り外しが可能であり、従来のワイヤー矯正に比べて痛みや見た目のストレスが少ないです。
経済的負担が比較的軽い
本格的な矯正治療に比べると、費用が抑えられる傾向にあります。
デメリット
患者の協力が必要
装着時間を守らないと効果が得られません。特に小さい子どもは、保護者の協力が不可欠です。
適応症例が限られる
骨格のずれが非常に大きい場合や、複雑な歯並びには効果が期待できないことがあります。
ムーシールドによる治療を検討する際は、専門の歯科医師に相談し、お子さんの状態に合った治療法か診断してもらうことが重要です。
上顎前方牽引装置
主に成長期の子どもの骨格性反対咬合(いわゆる「受け口」)の治療に用いられる矯正装置です。
仕組みと効果
上顎の成長を促進し、同時に下顎の成長を抑制する作用があります。
具体的には、以下の3つの主要なパーツで構成されています。
フェイスマスク(顔の外側に装着する装置):おでこやあごに当てるパッドで顔に固定します。
口腔内装置:上顎の奥歯に取り付ける固定式の装置です。
牽引用のゴム(エラスティック):フェイスマスクと口腔内装置をつなぎ、前方への牽引力を生み出します。
この仕組みにより、上顎の骨格に前方に引っ張る力が持続的に加わり、成長軌道を正しい方向に導くことができます。骨の成長を利用する治療法であるため、成長期を過ぎると効果が期待しにくくなります。
適用されるケース
上顎の骨の成長が不十分で、下顎が相対的に前に出ている反対咬合。
早期に治療を開始することで、将来的な外科手術を回避できる可能性があります。
装着時間と期間
装着時間
1日あたり10~12時間以上、できれば14時間以上の装着が望ましいとされています。主に就寝時や、自宅で過ごす時間に装着します。
治療期間
骨の成長を促すため、一般的には1年から1年半、あるいはそれ以上かかる場合があります。
注意点
牽引用のゴムは毎日交換する必要があります。
装置をつけた直後は話しにくさや違和感がありますが、徐々に慣れていきます。
床矯正(拡大床など)

主に子どもの歯並び矯正で使われる、取り外し式の装置です。永久歯がきれいなアーチを描いて生え揃うためのスペースが不足している場合に、そのスペースを広げることを目的としています。
床矯正の特徴
紛失・破損のリスク
取り外し式のため、紛失したり破損したりする可能性があります。
拡大床による治療を検討する際は、歯科医師に診断してもらい、お子さんの歯並びや顎の状態に合った治療法かを確認することが大切です。
装置の構造
プラスチック製の床部分に、ワイヤーやネジが組み込まれています。このネジを定期的に回すことで、装置が少しずつ広がり、歯列に弱い力がかかります。
効果
この装置は、主に歯を外側に傾斜させることで、歯が並ぶスペースを広げます。これにより、将来的に歯を抜かずに矯正治療ができる可能性を高めます。
注意点
拡大床は「顎の骨を広げる」というイメージを持たれがちですが、実際には「歯を支える骨(歯槽骨)を含めて歯を外側に動かす」という作用が主であり、顎の骨そのものを広げるわけではありません。顎の骨自体を広げたい場合は、「急速拡大装置」という別の装置が用いられることがあります。
床矯正に適用される年齢
顎の骨がまだ成長段階にある、永久歯が生え揃う前の6歳から11歳頃が最も効果的とされています。
装着方法と期間
装着時間
治療効果を得るためには、1日あたり10時間以上、できれば就寝時を含めてできるだけ長く装着することが推奨されます。取り外しが可能であるため、食事や歯磨きの際は外すことができます。
治療期間
個人差はありますが、数ヶ月から1年以上にわたる場合があります。
床矯正のメリット
抜歯を回避できる可能性
成長期に歯列を広げることで、永久歯を抜かずに済む可能性が高まります。
取り外し可能
食事や歯磨きの際に装置を外せるため、口腔内を清潔に保ちやすいです。
痛みや不快感が比較的少ない
装置にかかる力が弱いため、急速拡大装置などに比べて痛みや違和感が少ないとされています。
床矯正のデメリット
患者の協力が不可欠
装置を指示された時間、正しく装着しないと効果が得られません。
適応症例が限定される
拡大床だけではすべての歯並びの問題を解決できるわけではなく、複雑な症例ではワイヤー矯正など他の治療
チンキャップ
成長期の子どもの骨格性反対咬合(受け口)の治療に用いられる、取り外し式の矯正装置です。別名「オトガイ帽装置」とも呼ばれます。チンキャップは、下顎が前方に過剰に成長するのを抑制することを主な目的とします。
チンキャップは成長期のお子さんの受け口治療において効果的な選択肢の一つですが、治療を開始する前に歯科医師と十分に相談し、お子さんの状態に合った治療計画を立てることが重要です。

装置は以下の3つのパーツで構成されています。
ヘッドキャップ: 頭にかぶるヘルメットやバンド状の装置で、下顎を後方に引っ張るための固定源となります。
チンキャップ(オトガイパッド): 下顎の先端(オトガイ部)に当てるキャップ状の装置です。
ゴムバンド: ヘッドキャップとチンキャップをつなぎ、ゴムの力で下顎に持続的に後方へ引っ張る力を加えます。
適用されるケース
骨格性反対咬合
特に、下顎が上顎よりも大きく成長していることが原因で受け口になっている場合。
対象年齢
下顎の成長が活発な時期に効果を発揮するため、9歳から15歳頃の子どもに適用されることが多いです。骨の成長がほぼ完了している大人には効果が期待できません。
装着方法と期間
装着時間
主に就寝時や自宅で過ごす時間など、1日あたり10時間以上装着することが推奨されます。
治療期間
顎の成長をコントロールする必要があるため、個人差はありますが、1年から数年かかることがあります。
メリット
外科手術の回避
成長期に骨格のバランスを整えることで、将来的に下顎骨を切るなどの外科手術が必要になるリスクを減らすことができます。
デメリット
患者の協力が不可欠
装着時間を守らないと十分な効果が得られないため、本人の強い意志と保護者のサポートが必要です。
見た目が目立つ
外出時など、人目が気になる場面では使用しにくいというデメリットがあります。
成人期の矯正(12歳頃)
顎の成長が止まっているため、歯の移動による改善が中心となります。骨格的な問題が大きい場合は、外科手術を併用することもあります。1年半~3年程度が目安です。
ワイヤー矯正(マルチブラケット矯正)

表側矯正
歯の表面にブラケットとワイヤーを装着する方法。様々な症例に対応できますが、装置が目立ちます。
費用:60万~130万円程度

裏側矯正(リンガル矯正)
歯の裏側に装置を装着するため、目立ちにくいのが特徴です。
費用:100万~170万円程度
マウスピース矯正(インビザラインなど)

透明なマウスピースを定期的に交換しながら歯を動かす方法。目立たず、取り外しが可能ですが、適応症例に限りがあります。
費用:60万~110万円程度
外科矯正(外科手術併用矯正)
顎の骨自体を動かす手術と歯列矯正を組み合わせる方法です。重度の骨格性反対咬合の場合に適用され、見た目(顔貌)の改善も大きく期待できます。術前矯正→外科手術→術後矯正という流れで進みます。2~4年程度と長期になる傾向があります(術前矯正、手術、術後矯正を含む)。
外科矯正(手術費・入院費含む)
保険適用時: 30万~60万円程度
自由診療時: 100万~400万円程度
受け口矯正のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
| 審美性の改善 顔全体のバランスが整い、コンプレックスの解消につながります。 | 治療期間が長い 数年単位の治療期間を要することが多いです。 |
| 咀嚼機能の向上 しっかりと噛めるようになることで、消化吸収が良くなります。 | 費用がかかる ほとんどのケースで高額な費用がかかります。 |
| 発音の改善 舌や唇の動きがスムーズになり、サ行やタ行などの発音が明瞭になります。 | 治療中の痛みや違和感 矯正装置による痛みや違和感、食事制限などがあります。 |
| 口腔衛生の向上 歯並びが整うことで歯磨きがしやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが軽減します。 | 通院頻度 定期的な通院が必要です。 |
| 顎関節症のリスク軽減 噛み合わせの不均衡による顎への負担が軽減されます。 | 後戻りの可能性 治療後に保定装置をしっかり装着しないと、歯並びが元に戻る「後戻り」のリスクがあります。 |
| 全身の健康改善 噛み合わせの改善は、肩こりや頭痛、体の歪みなど、全身の不調にも影響を与えることがあります。 | 外科矯正の場合のリスク 入院やダウンタイムが必要で、顔の痛みや腫れ、しびれなどのリスクがあります。 |
治療のタイミング
小児期
特に骨格的な問題が原因の場合は、3歳頃からの早期治療が推奨されます。顎の成長を利用することで、大きな改善が期待できます。
学童期(6~12歳頃)
永久歯への生え変わりが進む時期で、この時期に治療を開始するケースが多く見られます。
成人期
顎の成長が止まっているため、治療の選択肢や期間が変わりますが、何歳からでも矯正は可能です。
受け口は放置すると様々な問題を引き起こす可能性があるため、気になる場合は早めに歯科医院を受診し、専門医に相談することをおすすめします。個々の症状や状態に合わせた最適な治療計画を提案してもらえるでしょう。

